〜みんな違ってみんないい〜

(森上史朗・吉村真理子監修「ぞう組さんあつまれ」(ミネルヴァ書房,1996)から



 はじめて異年齢グループを担当したとき,私のグループには,くに君という二分脊椎のため足に補装具をつけて歩行している男の子がいました。当時私がいた保育所では幼児になると週に2日間異年齢グループですごすことになっていたのです。

 グループ活動が始まったころのことです。昼寝の前にくに君が自分で補装具をはずし始めると,そばにいた年少のさとちゃんがたずねました。
「それ(補装具を指して),なに?」
「これはな,ぼくの足なんや」と,くに君は答えました。
「ふうん」さとちゃんはその一言で納得したのです。なんと的確なことばでしょう。私は,子ども同士の率直な会話を心地よく聞いていました。

 昼寝の後,早く目覚めたさとちゃんは補装具を大事そうに抱えてくに君の枕元にいき,そっと渡しました。
「くに君の足,持って来たよ」と言って...。

 なんでも言い合える関係をまず大切にしようと出発したグループ活動のなかで,子どもたちはおとな以上に自然体で,くに君とかかわっていったのです。

 グループ対抗の運動会をひかえた秋のころ,年長のなおちゃんはこんなことを訴えました。
「先生,リレーしてもおもしろくないわ」
「なんで?」
「くに君いたら,きっと負けてしまうもん」。
なおちゃんはストレートに思いをぶつけるなかで大切な課題を提供してくれたのです。
「勝つことだけが楽しいことかな。もっと他に楽しいことがないか考えてみよう」。
子どもから出てくる答を私は少し待つことにしました。次のグループ活動のときも最初に話しだしたのは,なおちゃんでした。
「リレーが楽しくなることを考えたよ。応援合戦をするの。友だちが走っているときいっぱい応援したら楽しいし,自分が走っているとき友だちが応援してくれたらきっとうれしいと思う」。
自分が言いだしたことについて一所懸命考えてきたのです。家でお父さんに相談したところ,「楽しみが見つからなかったら,つくったらいい。いっしょに考えよう」と,ヒントを与えてくださったとのこと。みんなはこの素敵な提案に大賛成しました。

 そして運動会の当日。リレーでは,思わぬ光景がとびだしました。転んだ友だちを待って,いっしょに走りだす子もいれば,1周近く差をあけていたトップのアンカーが,2周走って他のアンカーとほぼ同時にゴールインしたのです。くに君をはじめ,どの子もいきいきとマイペースで友だちを感じながら走っている姿に私は胸が熱くなりました。

 いろんな子どもがいて,それぞれ違う。みんな違ってみんないい。ぶつかり合い,相手を知るなかで,思いをわかち合えるのも,みんな違うからできることではないでしょうか。そんなくらしを大切にしたいと,私は子どもと出会うたびに思います。



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