〜はじめましておかいこさん〜

(森上史朗・吉村真理子監修「ぞう組さんあつまれ」(ミネルヴァ書房,1996)から



 生き物が大好きな年長クラスの子どもたちのもとに,飛び上がるような贈り物が届いたのは6月はじめのことでした。送り主は当時交流していた徳島の八万保育所。わくわくしながらみんなで段ボールを開けると,箱と山盛りの桑の葉と『おかいこさん』と書かれてあるパンフレットが出てきたのです。箱のなかには,小さなイトミミズのような幼虫がぎっしり! 私は思わず悲鳴をあげました。子どもたちは「かわいい」...。これがおかいこさんとのはじめての出会いだったのです。

 自主参加での世話人は日に日に増えていき,たちまちみんなおかいこさんとなかよしになりました。世話をしながら,子どもたちは私に言ってくれたのです。「くーちゃん,糸がとれたらドレス作ってあげるしな」と。

 クラスの本棚にそっと置いておいた『カイコ』の科学絵本もすぐに見つけ出し,みんな興味しんしん。成長を確かめたり,いろんなことを知るなかで,子どもたちはおかいこさんの数を知りたくなりました。ある日みんなで数えてみると,なんと165匹いたのです。すると「くーちゃん,ドレスはあきらめて。ネクタイ1本しかできひんよ」と子どもたち。本に,『ネクタイ1本作るのにまゆが160個いる』と書いてあったそうです。

 5れい幼虫になったころ,大急ぎで大きな段ボールのなかにおかいこさんのマンションを組み立てました。子どもたちの観察も鋭さを増し,「葉っぱ食べていないよ」「からだが透き通ってきた」と,次つぎにまゆづくりを始めそうなかいこを持ってくるのです。口から糸を出し,一途にまゆづくりをする姿はまるでダンスをしているよう...子どもたちは,いのちの不思議さに出会っていました。

 最初にできたまゆから生糸を紡いでみようとなべに熱湯を用意したときのことです。まゆをおなべに入れたとたん,「あっ,ひとごろしや」と,はっちゃんが叫びました。「せやけど,おまえもお魚やお肉食べてるやんか」と反論したのは,ゆうくん。「でもやっぱりかわいそう...」と言うはっちゃんの思いをくんで子どもたちは,手を合わせていました。そして大切に糸を紡ぎだしたのです。まゆは1本の糸でできていて1200〜1500メートルの長さになるとのこと。子どもたちには「保育所から植物園ぐらいまでの長さかな」と伝えました。交替しながら1日中紡ぎ続けた子どもたちは,時折たずねていました。「いま,どこらへんまで行ってる?」。

 子どもたちが育てたまゆを活かせる方法はないかと,私は徳島の仲間に相談しました。そしてできたのがかわいいまゆの花のコサージュです。卒園式の日,コサージュは子どもたちや私の胸元で輝いていました。



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